太良高校、メタバースで登校が難しい生徒にも学習機会を提供
【文科省指定研究】誰一人取り残さない新しい時代の高等学校教育

佐賀県立太良高等学校(所在地:佐賀県藤津郡、校長:緒方康二、以下「太良高校」)では9月17日(火)、インターネット上の仮想空間、いわゆるメタバースを活用した公開授業が行われました。この日は1年生の3クラスの生徒たちがメタバースで授業に参加し、多くの教育関係者やメディアが見学に訪れました。

生徒たちは、メタバース空間内に設けられた仮想の教室に、アバターと呼ばれる自分の分身のキャラクター姿で入室し授業を受けました。この授業は、文部科学省指定研修「ICTを活用した誰一人取り残さない新しい時代の高等学校教育DXプロジェクト」の一環として行われたものです。

このメタバース授業の実現のため、佐賀県教育委員会や佐賀県教職員大学院の協力に加え、木村情報技術株式会社(本社:佐賀県佐賀市、代表取締役:木村隆夫、以下「木村情報技術」)がアドバイザーとして支援しています。

メタバース内の教室に生徒が出席
メタバース内の教室に生徒が出席

プロジェクトの背景・目的

近年、不登校生徒の数は年々増加しています。そのような中、太良高校は平成23年から重点評価枠(旧全県募集枠)を設け、不登校経験のある生徒や発達障害のある生徒、高校を中途退学した生徒を受け入れています。太良高校はこれまでの実践的な教育に加え、ICTやAIを最大限活用することでさらに教育の質を向上させ、すべての生徒たちに対する学習機会を確保することを目指しています。

なぜメタバースなのか

太良高校は、不登校生徒の学習機会を確保しつつ、登校を促していく考えです。メタバースを活用すると、生徒同士が自由にコミュニケーションを取ることができ、その結果として登校への意欲が高まると見込んでいます。

メタバース内の教室では、生徒たちはアバターの姿で参加するため、コミュニケーションが苦手な生徒や不登校生徒でも、比較的抵抗なくやり取りをすることが可能です。さらに、電子黒板の内容や教室の様子を画面共有することで、教師はオンラインでも生徒の質問に答えながら授業を進めることが可能で、対面授業とほとんど差は見られません。

加えて、Web会議システムと異なるメタバースならではのメリットとして、メタバース内の教室では、誰がどこにいるのかが一目瞭然な点があげられます。生徒たちはアバターを通じてクラスメイトに近づいて会話するなど、対面に近い交流が可能です。

メタバース授業の様子

教師は実際の教室から授業を行い、一部の生徒は同じ教室から、そして大多数の生徒は自宅などの遠隔から授業に参加しました。授業では、2Dメタバース「Gather」が活用されました。3Dメタバースと比べ、操作が簡単で通信量が少なく、さまざまな端末で利用可能といったメリットがあります。

3つのクラスでは、対面で参加する生徒とメタバースで参加する生徒の両方に対応するため、教師はそれぞれに工夫を凝らした授業を行いました。教師の質問に対して、生徒たちはテキストチャットやボイスチャットから回答したり、不明点を質問するなど、スムーズに授業が進行する様子が見られました。

さらに、授業中はメタバース上の教室内で生徒たちは複数のグループに分かれ、ディスカッションを行う場面もありました。

メタバース授業の様子
メタバース授業の様子
メタバース授業の様子
メタバース授業の様子
メタバース授業の様子
メタバース授業の様子

自宅から参加した生徒のコメント

タブレットとスマホのどちらからでも参加できて、意外とやりやすかったです。声で話すのは少し恥ずかしいですが、テキストチャットなら話しやすいと感じました。対面の授業とメタバースの授業の違いは特に感じませんでしたが、コミュニケーションの面では登校したほうが取りやすいと思いました。

太良高校 緒方校長のコメント

本校には多様な生徒がいますが、予想以上にスムーズにメタバース上の教室に入室してきて、対面授業と同じように授業ができていると感じています。まだ実証実験の段階ですが、現時点での発見として、オンライン授業のほうが特に英語などの科目で生徒たちの発言が増える傾向が見られます。

文部科学省のほうで改定があり、令和6年4月から不登校生徒に対しては、学校で実施するオンライン授業が出席と認められることになりました。今回のようなバーチャル空間を利用した登校は、その実証実験の一環です。バーチャル空間だとアバターの姿のためか生徒が出席しやすくなり、生徒同士のコミュニケーションも取りやすいと考えています。

ただし、オンライン化をむやみに推奨しているわけではありません。最終的な目標は、全日制の高校として、不登校を経験した生徒も学校に戻り、卒業して社会に出ていくことです。授業だけではなく、生徒同士の会話や学校行事、カウンセリングなどもメタバース上で行えるようになると、生徒たちの学校に出てくる意欲が高まると期待しています。

先生方は予想以上に積極的にハイブリッド授業に取り組み、適切に対応してくれています。生徒たちもスムーズに授業を受けられています。まずは1年生を対象に実施していますが、今後は2年生や3年生にも広げていきたいと考えています。

木村情報技術 代表 木村のコメント

当社はこの2~3年、メタバースの研究開発や実証実験に取り組んできました。今回は、教育現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)についてご相談いただき、メタバース空間の利活用の面でご協力させていただくことになりました。

理想としては、よりリアルでクオリティの高い3Dメタバースを使うことが望ましいのですが、維持にはどうしても費用がかかります。また、ハイスペックなPCでしか参加できないなど、制限が出てしまうことも問題です。

授業では、現実的にはスマートフォンやタブレットを使うことになります。そのためあえて2D空間を選択しましたが、2Dでも3Dでもコミュニケーションの取りやすさに違いはありません。この選択によってランニング費用も抑えられます。

今後も引き続き協力し、教育現場のDXを支援していきたいと考えています。

不登校生徒への教育機会の提供という課題は、太良高校に限ったことではありません。他の県立高校にも「学校に行きたいけれど行けない。それでも学びたい」という生徒は一定数存在します。今後も教育委員会と連携しながら、同じ課題を持つ他の学校でも、メタバースを活用した実証実験を行っていく予定です。

メタバースのトータルコーディネートサービス KIMULAND+

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